第3話 モタの遺言書
ルルラ町の鍛冶屋、モタは、タキが相続人の一人になったことで、これまで築き上げた財産や鍛冶屋の事業をどう遺すか決めることが、今の彼にとって最も重要な課題だった。しかし、家族の中では彼の遺産を巡る対立が生じており、遺言書の作成は一筋縄ではいかなかった。
モタは後妻のキミと彼女の連れ子スミ、さらに愛人リンとその息子タキという複雑な家庭を持っていた。特にリンは、タキがヨタの遺産を確実に受け継げるよう、遺言書の内容に強く関与しようとしていた。
ある日、モタが遺言書を書いているとしていると、リンが部屋に入ってきた。
「モタ、この遺言書にはタキがしっかり財産を受け取れるように書いてほしいわ。この鍛冶屋の土地や工房以外の財産をタキに全部譲るって書いて。それに、他の財産ももっと明確に分けておかないと、後でトラブルになるわよ」と、リンは声を大にして主張した。
「わかった、少し待て」とモタは応じたが、リンは彼の手元からペンを取り、自らの希望を遺言書に書き足し始めた。
「タキにはこの銀行預金、それから…」と勝手に書き進めるリンを見て、ヨタは困惑しながらも黙って見守るしかなかった。
そこに、キミが入ってきた。彼女はリンが何をしているのか一目で理解すると、すぐさま声を上げた。
「リン、何をしているの!?ヨタの遺言書はヨタ自身が書くべきものよ!あなたが勝手に内容を変えるなんて許されないわ!」キミの声には激しい怒りが込められていた。
「これはタキの正当な権利を守るためよ。キミ、あなたには関係ない!」リンも負けじと反論し、二人の口論は激化していった。
モタは二人のやりとりに頭を抱え、結局、リンの強引な要求を受け入れる形で遺言書を完成させてしまった。しかし、その遺言書には日付が不明確で、内容もあいまいな部分が多かった。リンの手による勝手な書き足しもあったため、モタは次第に不安を覚えた。
後日、モタはその遺言書を町の行政マスターに遺言書を持ち込み、確認を依頼した。行政マスターは遺言書を丹念に読み進め、そして静かに首を振った。
「この遺言書は無効です。まず、日付に年と月しか記載されていないこと。そして、不動産以外の財産の分配方法が書き直しが訂正されておらず、他人による書き足しも法的に問題があります。さらに、モタさんの債務や借金、保証人などについても記載されていません。遺産に関わる負債があれば、必ず明記する必要があります。」
「保証人…」モタはその言葉に心がざわついたが、すぐに表情を取り繕った。
実は、モタはかつて長年取引してきた商人のキンタのために連帯保証人となっていた。その額は決して少なくなく、もしその商人が破産すれば、モタの財産の大部分が消え去る可能性があった。しかし、この事実は家族には一切秘密にしていた。特にキミやリンに知られるわけにはいかないと考えていた。
「保証人などは、記載するのか?」モタは問いかけた。
行政マスターは冷静に答えた。「法律上、保証人としての債務も遺産に影響を与えます。記載しないと、相続人に不利益が生じる可能性があります。」
モタは悩んだ。保証人の件を書けば、家族に内緒で、保証人になったことが露見し、彼らに動揺を与えるだろう。しかし、書かなければ相続後に問題が発生し、家族がさらに苦しむことになるかもしれない。
深いため息をついたモタは、結局その事実を遺言書には書かないことを決めた。家族に負担をかけたくないという思いがあったが、同時に自らの過ちを知られたくないという弱さもあった。そして、キンタが借金をちゃんと払えば問題ないと思うことにした。
モタは行政マスターの助けを借り、日付や分配方法を明確にし、法的に有効な遺言書を再作成した。しかし、彼の胸の内には解決しきれない不安が残っていた。
「これで、なんとかなるだろう…」モタはそう自分に言い聞かせたが、保証人としての秘密を抱えたままの遺言書が将来どんな影響をもたらすか、彼には知るよしもなかった。
そして、モタは遺言書を家の金庫にしまい込み、その夜、再び家族の未来について思い悩んだ。
後日、モタは、遺言書の中身をキミやリンに見られることを恐れて、遺言書を司法ギルドに預けることを弁護マスターに依頼した。家族には、遺言書については、鍛冶ギルドから紹介された弁護マスターを通じて、法務ギルドに預けてあることを伝えた。
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