ゴタは、ホンデニ皇国での相続放棄の手続きを終え、新しい生活へ向けて動き出した。ホンデニ皇国の法律は、日本の法律に酷似していたため、ゴタが前世で得た日本の法律知識が非常に役立った。しかし、それでも異世界での法的手続きは初めての経験であり、特に相続関連の手続きは複雑で神経をすり減らすものだった。とはいえ、無事に相続放棄を終えたゴタは、これからの新しい生活に向けて一歩を踏み出そうとしていた。
ゴタが住むホンデニ皇国は、東の港湾都市バーケンに近いルルラ町にある。彼の父、モタは自宅で鍛冶屋を営んでおり、その仕事のおかげで家族はかなり裕福な生活を送っていた。しかし、モタの突然の死と、それに伴う借金問題が家族に降りかかることとなった。ゴタの母カヨもすでに亡くなっており、今の家族構成は継母のキミ、その連れ子であるスミ、そして亡き父の愛人であるリンと、その息子タキがいる。ゴタ自身は転生者であり、6歳の頃に転生前の記憶が突然蘇り、魔法の力を秘めていることにも気づいていた。しかし、この世界では魔法使いは非常に希少であり、ゴタはその事実をひた隠しにしている。
相続放棄の手続きを終えた後、ゴタはまず継母キミを説得し、彼女にも相続放棄を同意させた。モタの借金の影響を避けるためには、それが最善の選択だった。相続放棄が完了した今、ゴタは、自分を信じて、相続放棄したキミとスミとともに新たな生活をスタートさせることに決めた。現在の家はタキが相続したことで、キミもスミも今の家にいることで気まずい思いをすると思い、新しい家を探す必要があった。そこで、ゴタは都心部から少し離れた静かな村に引っ越すことを決意した。その村は、ラコ村と呼ばれ、ゴタの魔法の秘密が知られる心配が少なく、静かで落ち着いた環境だった。ゴタは魔法を使わずとも生活できる環境を求めていた。
新しい家は小さな庭付きの家で、これまでの豊かな生活とは違い、質素であるが、穏やかな雰囲気が漂っていた。ゴタは新たな環境での生活に希望を抱いていたが、それと同時に何か不安が心の中にくすぶっていた。新生活の始まりとともに、ゴタはこれまでの出来事を振り返り、家族との関係を再構築しようと努めていた。
一方、ゴタは兄キタと、モタの愛人リンの息子タキにも相続放棄を伝えた。キタとタキは当初、ゴタの選択に納得していなかった。特にキタは、父モタの仕事を継ぐことを考えていたため、相続を放棄することに強い抵抗を感じていた。しかし、ゴタは自身の判断が正しいと確信しており、キタとタキが自分たちの道を選ぶことを尊重するしかなかった。
そんな中、ゴタの不安は次第に現実のものとなりつつあった。ある日、ゴタはモタがキンタという人物の借金の連帯保証人であったという事実を知ることとなった。ゴタにとってキンタは、一度だけ、工房で見たことがあるだけで、ほとんど知らない存在であった。さらに、キンタはモタが亡くなった後に行方不明になっており、その借金はモタの遺産をはるかに超える金額であることが判明した。この事実にゴタは驚きを隠せなかった。そして夢に出てきた母の言葉を信じてよかったと思った。
この知らせはゴタにとって不安を感じることもあった。相続放棄をしたとはいえ、キンタの借金が彼らの生活に影響を及ぼす可能性が高かったからだ。ホンデニ皇国の法律が日本の法律に似ているといえども、異世界特有の解釈や例外が存在する可能性も否定できなかった。ゴタは冷静さを取り戻し、この問題にどう対処すべきか慎重に考える必要があった。
ゴタはまず、キミとスミを安心させるために、「私たちは相続放棄をしたから、直接的な責任はないはずだ」と説明した。しかし、彼の心の中には不安が募っていた。異世界での法的手続きがどれほど異なるのか、今一度確認する必要があったため、ゴタは再び弁護マスターに相談することを決意した。これにより、事態の収束を図り、家族の生活を守ろうと考えたのだ。
新しい生活を始めたばかりのゴタたちにとって、この不穏な出来事は大きな試練だった。ゴタは、キンタの借金問題がどのように進展するのか見極める必要があったが、それだけではなかった。ホンデニ皇国の法律と日本の法律が似ているとはいえ、異世界特有の魔法や慣習が絡むことで、予測不能な事態が生じる可能性もあった。ゴタは、自分の魔法の力を隠しつつ、家族を守るためにできる限りのことをしようと決意を新たにした。
ゴタたちの新しい生活は、これからどのように進展していくのだろうか。相続放棄が完了したとはいえ、家族に降りかかる問題はまだ解決していなかった。モタの愛人リンや、その息子タキとの関係、そして兄キタとの絆も、これから再構築していかなければならない。
また、ゴタ自身も自分の力に向き合わなければならなかった。魔法が使えることを周囲に知られないようにする一方で、家族を守るためにはその力を使う必要が出てくるかもしれない。ゴタは、異世界の法的問題と魔法の力の狭間で葛藤しながらも、新たな試練に立ち向かっていく決意を固めていた。
彼は弁護マスターと共に、キンタの行方や借金問題の真相を解明するための手続きを進めることにした。弁護マスターの助言に従い、ゴタはさらなる証拠を集め、家族を守るための法的な対応を整えることを優先した。異世界の人々の識字率は低く、本はかなり高価で、法律関係の書籍などは、弁護マスターなどの法律関係の職業以外の人が手に入れることはできなかった。ゴタも法律の本を見たことがなく、日本の知識では通用しない部分も多いと思われる。だからこそ、ゴタは慎重に行動し、家族を危険にさらさないようにすることが求められていた。
しかし、事態は予想外の方向へ進むこともあり得る。ゴタは、魔法の力を隠しながらも、異世界での新たな生活を守り抜くために奮闘するしかなかったのだ。ホンデニ皇国の法律、そして魔法の存在という異世界の現実を受け入れつつ、彼らの生活は続いていく。
ゴタたちの試練は、まだ始まったばかりだった。
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