朝日が穏やかにリビングを照らし、家の中は一見、平和そのものだった。しかし、その静けさの裏では、ゴタの心に大きな嵐が吹き荒れていた。相続の問題が家族にとって避けられない現実となり、ゴタはこの状況をどう乗り越えるべきか、頭を抱えていた。昨夜、夢で母カヨから告げられた父モタの莫大な借金について、彼はついに行動を起こす時が来たと感じていた。
ゴタは父の借金を確認するため、鍛冶ギルドやヨタの知り合いに接触していた。結果、モタが知人キンタの借金の連帯保証人になっているらしいことがわかった。だが、ゴタは魔法の鑑定を使って相手が嘘をついていないことを確認していたものの、家族に魔法が使ったことを言えず、あくまで慎重に話を進めざるを得なかった。ゴタは、今後のことを弁護マスターと相談することにした。
家に戻ってから、大事な話があるので、兄のキタに家族全にリビングに集まってもらうようお願いをした。
リンとタキが、ゴタがまた変な夢の話をするのかといぶかしげな顔をしていた。最後にキミとスミがリビングに入ってきて、家族全員が集まった。ゴタは決心を固め、重い口調で話し始めた。
「皆さん、先日、母さんが夢で教えてくれたことをお話しましたね。そして今日、父さんが抱えていた借金についての報告があります。父さんが知り合いのキンタの借金の連帯保証人になっており、かなりの額の借金が存在している可能性があることが分かりました。そして、キンタがどこにいるのかわからず、連絡も取れませんでした。」
キミは驚き、スミは不安そうな顔をしていた。ゴタは続けた。「キンタが借金を払えなければ、その借金は、私たちの負担となります。だから、私は相続放棄を進めようと思っています。」
「相続放棄…」キミが沈んだ声で呟いた。「それしか方法はないの?」
「今のところ、確実なのは法律上の相続放棄です。遺産分割協議による放棄もありますが、それは他の相続人に財産を譲るだけで、債務の負担は残る可能性があります。しかし、法律上の相続放棄をすれば、借金も含めて一切の相続権を放棄できます。」ゴタは弁護マスターから得た知識を丁寧に説明した。
「でも…父さんの財産を放棄するということは、家も全て失うってことになるのよね?」スミが不安そうに尋ねた。
「そうだね。ただ、借金の額があまりにも大きいから、相続するよりもリスクが少ない。現実的に考えると、それが最善の選択だと思う。」ゴタは力強く言った。
キミはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。「ゴタさん、あなたの言う通りかもしれないわ。法律上の相続放棄の方が安全で、後のトラブルも少なく済むでしょう。」
スミも黙って頷き、彼女も相続放棄に賛成する意を示した。しかし、キタとタキの反応は異なっていた。二人は黙って話を聞いていたが、やがてキタが口を開いた。
「ゴタ、夢の話を根拠にしているというのが、どうも納得できないのだ。遺言書には父さんの連帯保証人について何も書かれていないし、本当にそんな借金があるのか確信が持てない。」キタは不信感を露わにしていた。「だから、私は相続することに決めた。」
「僕もそうだ。」タキがキタに同調するように言った。「遺言書には連帯保証人や借金のことなんて一言も書いてなかった。それに財産もそれなりにあるのだから、相続放棄をする理由がないと思う。」
ゴタは驚きつつも、彼らの考えを理解しようと努めた。家族それぞれの意見を尊重する一方で、自分の選択を変えるつもりはなかった。キタとタキが相続を選んだことに対して、彼は内心で不安を抱えながらも、法的手続きを進める決断を固めた。
「分かりました。皆の意見は尊重します。でも、私は法律上の相続放棄を進めることにします。」ゴタは冷静にキミとスミに、「法律上の相続放棄を選択することで、リスクを避けることができる。それが最善の選択だと思います。」と言った。
キミはゴタの言葉に再び頷いた。「私も相続放棄を進めるつもりです。リスクを負うつもりはありません。」
スミも、「私も法律上の相続放棄をした方が良いと思います」と同意した。
その後、ゴタは弁護マスターとの打ち合わせに進んだ。彼は必要な書類を整え、正式に法律上の相続放棄の申立てを行った。手続きは思ったよりも順調に進み、ゴタとキミの名前で正式に相続放棄が認められた。
一方、キタとタキは相続することを選び、父の遺産を引き継ぐ決断を下した。これにより、家族の間には見えない亀裂が生まれ、微妙な緊張が続いていった。
ゴタはその夜、家の庭に出て星空を見上げた。母の言葉が頭の中で響き続ける。「これで良かったのか?」という疑問が心をよぎったが、彼は自分の選択に間違いがなかったと信じていた。家族の未来を守るためには、時に困難な決断を下すことが必要なのだと。
だが、ゴタはまだ心の中で葛藤していた。キタとタキが相続を選んだことで、今後どのような問題が発生するのか、それは未知数だった。そして、その結果が家族全員にどう影響するのかも予測できなかった。
「これからどうなるのだろう…」ゴタはつぶやいた。
彼の心には、家族との絆が壊れるのではないかという不安があった。しかし、同時に、彼は自分の判断が正しいと信じていた。そして、これからも家族のために、最善の道を模索していく決意を新たにした。
その夜、ゴタはもう一度母の言葉を思い出し、目を閉じた。「私はあなたのそばにいるわ…」母の声が心の中で優しく響いていた。
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