相続人全員が相続放棄した場合は、保存義務が発生します。相続放棄をすると、次順位の人が相続人になります。知らないうちに相続人となることがあります。マイナス財産だったらちょっと怖いですね。相続放棄する時は、相続関係者に伝えておいた方が良いと思います。
相続人全員が相続放棄をした場合、通常の遺産分割とは異なり、特定の問題やトラブルが発生する可能性があります。以下にいくつかの典型的なトラブル事例を挙げます。
相続人全員が相続放棄した場合の予想されるトラブル
1. 借金や債務の処理に関するトラブル
相続放棄をすると、その相続人は被相続人の財産(プラスの財産)とともに、借金や債務(マイナスの財産)も受け継ぐことを放棄します。しかし、全員が相続放棄した場合、債務者であった被相続人の借金を誰が支払うのかが問題になります。
- 債権者の請求先がない問題:相続放棄が確定した時点で、相続人は法律上、債務を支払う義務がなくなるため、債権者は借金の返済を請求する相手を失います。この場合、債権者は法定の次順位の相続人に請求するか、被相続人の財産を競売にかけるなどの法的手続きが必要になります。
- 管財人の選任問題:全員が放棄した場合、債務の清算を行うために家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任します。この管理人が被相続人の財産を整理し、借金や債務の返済に充てますが、管理人を選任するには手続きが必要で、これに時間や費用がかかります。
2. 財産管理の問題
被相続人が不動産やその他の財産を所有していた場合、相続人全員が放棄した後、その財産の管理や処分が問題になることがあります。
- 不動産の処分に困るケース:相続放棄をしても、誰かが不動産の管理をする必要があります。特に田舎の土地や使い道のない不動産の場合、固定資産税の支払いなども絡むため、放置されがちです。この結果、周囲の土地所有者や自治体に迷惑をかけることもあります。
- 共有財産や法人の所有財産の管理が問題化:相続人全員が放棄した場合、共有財産や法人の所有財産が存在する場合、これらの財産をどうするかが問題となります。特に共有者がいる財産では、他の共有者に負担がかかることもあります。
3. 行政の介入や遺品整理の問題
相続人がいなくなると、被相続人の遺品や財産を整理する人がいなくなるため、最終的には行政が対応することになります。
- 行政による遺品整理や不動産処分の負担:相続人全員が放棄した場合、遺品や不動産の管理は自治体が関与することが多く、最終的には行政が処分することになります。しかし、これには費用がかかるため、行政側にも負担が生じます。
- 空き家問題の発生:被相続人が家を所有していた場合、相続人全員が放棄することでその家が空き家となり、周囲に迷惑をかけることがあります。空き家は防犯や防災のリスクを高めるため、地域社会とのトラブルが発生することも考えられます。
4. 次順位の相続人に影響する問題
相続放棄をした場合、その相続人は相続の権利を失いますが、次順位の相続人にその権利が移る可能性があります。例えば、兄弟姉妹が放棄した場合、甥や姪が新たな相続人となることがあります。
- 次順位相続人への通知問題:次順位の相続人が相続の事実や相続放棄の必要性を知らずに、後から借金の請求を受けることがあります。このようなケースでは、迅速に相続放棄の手続きを行わなければならないため、法的な手続きに対する知識不足がトラブルを引き起こすことがあります。
5. 手続き遅延によるトラブル
全員が相続放棄をした場合でも、正式な手続きを行わないと後から問題が発生することがあります。
- 放棄手続きの遅延:相続放棄の手続きには期限があり、通常は被相続人の死亡後3ヶ月以内に行う必要があります。しかし、手続きが遅れると、その間に債権者が相続人に対して請求を行う場合があり、放棄が認められるまでの間にトラブルが生じることがあります。
これらのように、相続放棄が全員によって行われると、財産や債務の処理、次順位の相続人への影響、行政や第三者とのトラブルが発生することが多いため、放棄の際には慎重な検討と法的な対応が求められます。
相続人全員が相続放棄した場合、相続放棄した人には、相続財産清算人が選任されるまでの間、財産保存義務が発生します。この保存義務は、自己の財産を管理する際と同じ注意をもって行わなければなりません。
相続財産の保存義務
令和5年4月1日に施行された民法改正により、相続放棄をした場合でも、相続財産を現に占有している場合は保存義務を負うことになりました。
この改正により、次のようなことが明確になりました。
保存義務を負う相続人は、相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人。
相続放棄後の保存義務は、他の相続人などに財産を引き渡すまでしか負わない。
相続放棄後の保存義務は、次順位の相続人が相続財産の管理を始めるまで、又は、相続財産清算人に引き渡すまで負います。
全員が相続放棄をして自分が最後の相続人である場合は、裁判所に相続財産清算人の申立てを行う。
相続財産清算人が選任され、相続財産清算人に相続財産を引き渡すまでの間は保存義務がある。
※呼称が「管理義務」から「保存義務」に変更されましたが、中身は実質的に同じとされています。
相続財産清算人
相続財産清算人は、家庭裁判所によって選任され、相続財産の管理や清算を行います。相続財産清算人の選任は、利害関係者や検察官の申し立てにより行われ、利害関係者には被相続人の債権者や特定遺贈を受けた者、特別縁故者などが含まれます。
相続財産清算人が選任されると、その人物が相続財産を法人化し、売却や弁済などの手続きを進めます。また、相続財産清算人には報酬が支払われ、通常は選任を申し立てた人がその費用を負担します。
なお、相続放棄をしたとしても、被相続人の財産が借金を含む場合は、その借金が完全に消滅するわけではありません。プラスの財産があれば、それを用いて弁済する必要があり、被相続人が連帯保証人だった場合、その連帯債務に関しても相続放棄した相続人には一定の返済義務が残る可能性があります。
返済義務が生じる可能性(連帯保証人)
相続放棄をした場合、相続人は被相続人の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を一切引き継がないため、被相続人が連帯保証人であった場合、その債務も相続放棄によって免除されるのが一般的です。したがって、相続人には通常、返済義務は生じません。
しかし、相続放棄後にも一定の返済義務が残る可能性については、以下の点に注意が必要です。
相続放棄のタイミング
相続放棄は、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に行う必要があります。この期間を過ぎると、相続放棄が無効となり、債務も含めた相続財産を引き継ぐことになります。
相続放棄前の個人保証
相続人が相続放棄をする前に、被相続人と共に連帯保証人として契約していた場合、その個人としての連帯保証債務は相続放棄後も残る可能性があります。この債務は相続とは無関係に、契約上の義務として継続します。
保証債務の特例
連帯保証債務に関する特殊な契約や法律の適用により、相続放棄後にも返済義務が発生する場合が考えられます。例えば、相続人が保証契約に個人的に関与していた場合、この義務が引き継がれることがあります。
通常は相続放棄を適切に行えば、被相続人の債務についても責任を負うことはありませんが、具体的な契約内容や事例によっては異なる結果になる可能性もあるため、専門家に相談することが重要です。
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