ホンデニ皇国の法律は、ゴタが転生前に住んでいた日本に驚くほど酷似している。特に、家族や事業の相続に関しては、その規定や慣例がほぼ同じであり、ゴタにとっても理解しやすかった。ゴタが住むルルラ町は、ホンデニ皇国の皇都トカヨから東へ遠く離れた港湾都市バーケンに近い小さなラコ村で、ゴタはそこで家族とともに生活していた。
ゴタは、6歳のときに転生者としての記憶を取り戻し、自分が異世界に転生したことを知った。前世の知識に加え、魔法というこの世界では希少な力も使えるようになったが、それは誰にも秘密にしていた。ゴタは家族との生活を大切にしながらも、その力を使わずに生きていこうと決意していた。
ゴタの父モタは生前、自宅で鍛冶屋を営んでおり、その腕前は評判が高く、家はかなり裕福だった。モタには妻カヨがいたが、彼女は早くに亡くなり、その後モタは再婚し、継母キミとその連れ子スミが家族に加わった。また、モタには愛人リンもおり、彼女との間にはタキという息子がいた。ホンデニ皇国の法律では、愛人の子供にも事業継承の権利が認められており、タキも相続の対象となった。
ゴタの兄キタは長男として、父の財産を相続する立場にあった。しかし、ヨタの死後、思わぬ問題が発生する。ヨタは亡くなる前にキンタの借金の連帯保証人となっており、その借金が残された財産を圧迫することになった。キタとタキは父の財産を相続したものの、キンタの借金によって財産はマイナスになり、借金返済に追われる日々が続いていた。
そんな中、ゴタの家を訪れたのは、生命保険会社の職員を名乗る人物だった。その人物は、亡きモタが生前に生命保険に加入しており、その保険金の受取人がスミであることを告げたのだ。スミは、モタから養子縁組をしてもらえなかったため、長らく自分は部外者であり、家族として認められていなかったという思いを抱いていた。しかし、この生命保険の存在を知ったことで、モタが実際には自分を思いやっていたことがわかり、感謝の気持ちが湧き上がった。
スミが受け取ることになった保険金の額は500万ゴールド(日本円に換算して500万円)。これは彼女にとって大きな財産となるはずだったが、問題はここから始まる。スミが保険金を受け取ることを知ったキタとタキは、その保険金を借金返済に充てるべきだと主張し、スミに対して強引に保険金を渡すように要求してきたのだ。
ゴタと母キミは、ヨタの財産相続を放棄しており、モタの財産に関しても何も主張するつもりはなかった。しかし、スミが受け取るはずの保険金までが借金の返済に使われてしまうのではないかと不安になったスミは、ゴタに相談することにした。ゴタは、前世の知識を基に「保険金は相続財産とはみなされないはずだ」と考え、そのことをスミに話した。
ゴタはさらに、キタとタキに対して「スミが受け取った保険金は相続財産ではなく、彼女の固有の財産であるため、渡す必要はない」と説明した。しかし、キタとタキは納得せず、借金返済が厳しい状況にあったため、どうにかしてスミの保険金を手に入れようとしつこく要求してきた。
事態を解決するため、ゴタは弁護マスターに相談することにした。弁護マスターは、ホンデニ皇国の法律に基づいて次のように説明した。
「たとえ相続財産に負債が多い場合でも、死亡保険金は指定された受取人が受け取る権利があります。保険金は相続財産とはみなされず、受取人の固有の財産とされているため、借金の返済に充てる義務はありません。したがって、スミ様が受け取る保険金は、借金返済に差し押さえられることはありません。」
この説明にスミは安心し、ゴタも一安心した。弁護マスターから正式にキタとタキに「スミの保険金を渡す必要はない」と伝えたところ、キタとタキは不満を抱きながらも渋々その事実を受け入れるしかなかった。
ただし、弁護マスターはさらに重要な点についても指摘した。
「ただし、相続税法上では生命保険金は『みなし相続財産』として扱われるため、相続税が発生する可能性があります。また、生命保険の契約内容によっては贈与税や所得税がかかる場合もあります。スミ様が受け取る保険金も、税金の負担があることを考慮しておく必要があります。」
この説明を聞いたスミは、保険金に対する税金が発生する可能性を考慮しつつも、最悪の事態は避けられたことにほっと胸を撫で下ろした。彼女はモタが自分を思いやってくれたことに対して感謝の気持ちを抱きながら、今後の生活をどうしていくかを改めて考えることになった。
ゴタも、この一件を通じて、自分が異世界で家族を守るためには、法律やルールを理解し、それに基づいた現実的な対応が必要だと痛感した。魔法や剣術の能力が強くても、それだけでは家族を守ることはできないという現実を改めて実感したのだ。
一方、キタとタキは借金返済に追われ続け、相続したはずの財産がすべて借金に消えてしまうという厳しい現実に直面していた。彼らはスミの保険金に頼ろうとしたが、ゴタと弁護マスターの介入によってその望みは断たれた。キタとタキは不満を抱きつつも、借金返済の厳しい日々を続けざるを得なかった。
今回の一件で、ゴタはさらに法律知識を得ることが大切だと理解できた。そして前世の知識を持ち、異世界での法律を理解し、家族を守るために行動したことで、彼は家族との絆をさらに深めることができた。そして、この世界で生きるためには力だけでなく知恵や知識も必要だという教訓を胸に、ゴタは今後もこの異世界で新たな試練に立ち向かっていくことを決意した。
ホンデニ皇国の相続問題は一筋縄ではいかないが、今回の一件でゴタはさらに賢く、そして強くなったのだった。
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